観光の地図には、たいてい点として印がついている。施設、公園、展望台。そのなかで、線として見どころになっている場所が呉にはひとつある。美術館通りだ。どこかへ行く途中の道ではなく、道そのものが目当てになる。以下、広く知られている範囲の情報をたどりながら、この坂道の歩き方を書いてみる。
呉市中央を、館へ向かって上っていく坂
美術館通りは、呉市の中央にある石畳の坂道である。入船山記念館や呉市立美術館へ続く道で、呉駅から歩いて行ける範囲にある。
そして「日本の道100選」に選ばれている。道が選ばれるという発想は、日常ではあまり意識しないものだ。要するに、どこかへ通り抜けるための舗装ではなく、道それ自体に値打ちが認められたということになる。
選定の経緯そのものは、現地の案内や公式の情報にあたるのが確実だ。ただ、歩いてみれば納得できる要素は並んでいる。石畳の舗装、ゆるやかに上っていく傾斜、そして沿道に点在する彫刻である。
位置にも触れておきたい。呉は坂の多い街として知られ、海に面した平らな一帯から、内側へ向かって斜面が立ち上がっていく。この通りは、ちょうどその境目にあたる場所を通っている。駅の側から歩いてくると、平地から斜面へ移る感覚がこの坂で切り替わる。道が見どころになりうるのは、そういう位置を通っているからでもある。
彫刻が置かれた道を歩く
この通りの目印になっているのが、沿道の彫刻だ。一か所にまとめて置かれているのではなく、歩くにつれて次が現れる。
館の中に作品があり、その入口へ至る道にも作品が続いている。だから、館に入らなくても作品には出会える。屋外だけで完結する散歩として、この道は成り立っている。館内の展示はまた別の話なので、ここでは触れない。
作品ごとに現地の表示があるので、気になったものはその場で確かめながら歩くとよい。名前を知ってから見るのと、見てから名前を知るのとでは、後者のほうがこの道には合っている。
石畳を歩くときに気をつけたいこと
ひとつ実務的な注意をしておく。石畳は、ならされた舗装とは足元の感触が違う。目地の凹凸があり、雨のあとは滑りやすくなることもある。しかもこの道は坂である。
だから、歩きやすい靴で行くことをすすめたい。呉は坂の多い街なので、この道に限らず靴の選び方は効いてくるのだが、石畳と傾斜が重なるこの通りでは、その差がはっきり出る。ベビーカーや車椅子を使う場合も、段差と傾斜の様子を先に確かめておくと安心だ。
季節と時間で表情が変わる
沿道には木が並んでいて、春と秋で見え方が変わる。同じ坂を歩いても、葉の色と光の量が違えば、石畳の見え方まで変わってくる。
時間帯の違いも小さくない。日差しの角度が変われば、彫刻の影の落ち方が変わり、同じ作品が別のものに見える。立体を屋外に置くというのは、そういうことでもある。
呉を何度か訪れる機会がある人は、この道を定点にしてみるとおもしろい。館の中の展示が大きく動くことは多くないが、道は季節ごとに変わる。再訪のたびに違うものを受け取れる場所は、行き先としてはむしろ貴重である。
記念館とひとつながりに組む
歩き方としては、呉駅から市街地を抜けてこの坂を上り、そのまま入船山記念館へ向かう流れが自然だ。逆に、記念館を見たあとに坂を下りながら彫刻を眺めていく組み方でもよい。
歩く向きによって印象は変わる。上りは息が上がるぶん立ち止まる回数が増えるので、細部が目に入る。下りは視線が遠くへ届くので、通り全体の眺めが記憶に残る。両方向を歩ける行程なら、往復してみる値打ちはある。
ひとつ提案しておくと、この道を「移動のための時間」として処理しないほうがいい。次の行き先へ急ぐ気持ちで歩くと、石畳も彫刻も背景に沈んでしまう。歩く速度を落とすこと自体が、この道の楽しみ方である。呉には坂が多いが、上ること自体が目的になる坂は、そう多くない。
まとめ
美術館通りは、呉市中央にある石畳の坂道で、入船山記念館や呉市立美術館へ続いている。「日本の道100選」に選ばれ、沿道には彫刻が点在し、春と秋には木々の表情が変わる。呉駅から歩ける範囲にあるため、市街地を回る流れにそのまま組み込める。行き先と行き先のあいだを、道そのものを見どころとして歩く。呉には、それができる区間がある。
(この文章は公開された情報をまとめたものである。沿道の工事や周辺の施設の公開の状況は変わることがあるので、歩きに行く前に、呉市および各施設の公式の案内を見ておきたい。)
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