呉で山からの眺めというと、市街地の背後にそびえる灰ヶ峰の名前がまず挙がる。だが呉市の地図を東へたどっていくと、川尻町のあたりに、もっと大きな山塊が横たわっているのが分かる。野呂山である。標高は839メートル。灰ヶ峰よりも100メートル以上高く、性格もまったく違う山だ。ここでは、公開されている情報をもとに、この山がどういう場所なのかを整理する。
瀬戸内の沿岸では、最も高い部類の山
野呂山は瀬戸内海国立公園に含まれている。国立公園のなかでは六甲山に次ぐ高さとされ、瀬戸内海の島々を見渡せる沿岸部の山としては最も高いと紹介される山だ。
この「沿岸部で最も高い」という点が効いている。海のすぐそばから839メートルまで一気に立ち上がっているため、山頂部からの眺めには、海面との落差がそのまま迫力として乗ってくる。内陸の同じ高さの山では得られない種類の展望である。
かぶと岩展望台から見えるもの
山頂部の代表的な展望地が、かぶと岩展望台だ。眼下には瀬戸内海の多島美——大小の島が幾重にも重なる海——が広がる。空気の澄んだ日には、遠く四国の石鎚の山並みや、しまなみ海道の来島海峡大橋まで望めるとされる。
呉市街の側から見る海とは、島の重なり方が違う。灰ヶ峰から見えるのが「軍港と市街の海」だとすれば、野呂山から見えるのは「島の海」だ。同じ呉市でも、東へ来るとこれだけ景色の質が変わる。
多島美という言葉は瀬戸内の紹介で頻繁に使われるが、その言葉が指している景色の実物を、これだけの高さと近さで見られる場所は限られている。島が近景から遠景まで層になって重なり、間の海面が光る。方角と時間帯で表情が変わるので、同じ展望台でも朝と昼と夕方ではまるで別の景色になる。
山の上が、ひとつの高原になっている
野呂山のもう一つの特徴は、山頂部が広い高原状になっていることだ。上には大小の池や奇岩が点在し、山上を歩いて回る楽しみがある。頂に立って引き返すだけの山ではなく、上に「滞在する場所」がある山なのだ。
これは展望の山としては貴重な性格で、見晴らしのいい一点に立って終わりではなく、池のほとりを歩き、岩を眺め、また別の展望地へ移る、という過ごし方ができる。山上だけで半日を組めるだけの広がりがある。
車で山頂近くまで上がる道路も整備されているので、登山装備がなくても展望地までは到達できる。歩いて登る道もあり、体力と時間に応じて選べる。麓と山上では気温も変わるので、夏でも羽織るものが一枚あると安心だ。
呉市街からの距離感
野呂山は呉市の東端に近い川尻町にあり、呉駅周辺からはそれなりの移動になる。市街地の観光のついでに寄る場所ではなく、半日をあてる目的地と考えたほうがいい。
位置としては、安芸灘とびしま海道の入口である川尻・仁方エリアの背後にあたる。島へ渡る旅と組み合わせて、海を上から見る日と海面の高さで走る日を分ける、という組み方も成り立つ。前日に山の上から島々の並びを頭に入れておくと、翌日に橋を渡っていくとき、自分がどの島のどのあたりを走っているのかが分かるようになる。
どんな人に向くか
多島美をまとめて見渡したい人には、呉市内で最有力の場所だ。灰ヶ峰の夜景をすでに見た人が「昼の海の眺め」を求めるなら、次はこちらだと言っていい。山上の池や岩をめぐる軽い散策が好きな人にも向く。
一方、呉駅周辺の博物館めぐりを主目的にする短い旅程には向かない。移動に時間を取られて、どちらも中途半端になるからだ。野呂山は「呉に二度目に来たとき」あるいは「島や東部まで足を伸ばす日」のための行き先と割り切るのがいい。
まとめ
野呂山は呉市川尻町にある標高839メートルの山で、瀬戸内海国立公園のなかでも指折りの高さを持つ。かぶと岩展望台からは瀬戸内の多島美が広がり、遠く四国の山並みまで見えることもある。山頂部は高原状で、池や奇岩をめぐる散策もできる。呉の展望は灰ヶ峰だけではない——東にはもっと大きな山が待っている。
(この記事は公開されている資料にもとづく。山上への道路の通行状況や施設の営業は変わることがあるので、向かう前に呉市や観光協会の公式の案内で最新の状況を確かめてほしい。)

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